カフェ沖縄式 定食 1999年頃


 『幻の沖縄・昔そば/芋そば』が、本当に幻となって数年が経過した。最初のころは、お客さんからの問い合わせも多くあったが、次第に少なくなり、やがてまったくなくなった。
 復活させようと思えば、いつでもできはしたが、忙しさだとか、周囲の反対だとか、その他もろもろの事情により、復活に踏み切ることができなかった。しかし、いつか復活させよう、そのことだけはいつも思っていた。芋そばがなくなったと同時に、心のなかにぽっかりと穴があいた。その穴を埋めるには、復活以外、他に無かった。


                   カフェ沖縄式 みぬだる定食 2000年頃

◆きっかけ
 なぜ、そんなに芋そばにこだわるの?
 ときかれると返答に困ってしまうが、結局、あのそばが好きだったのだ。味はもちろん、その素朴で無骨ななたたずまい、ただあるがままといった雰囲気が好きだった。
 実際、他の麺類のように、かんすいとか、添加物とか余計なものを一切加えない。本当にただお芋だけ、というところが何よりも良かった。沖縄の地域にたとえれば、沖縄そばが那覇や中部だとすれば、芋そばは沖縄本島北部、喜如嘉より北にある古い集落の感じ。離島でいえば伊計島、竹富島、多良間島あたりのイメージであろうか。
 それに、なんというか、知っている者もほとんどいない歴史から消えたこのそばの存在が、なんとなくミステリアスなものに思えて、惹きつけられたのだ。
 とにかく、いつか必ず復活させようと思っていた。そして、そのきっかけが、つい先日、訪れたのである。


 

◆我が祖母なる芋そば
 きっかけはいくつか重なってあった。そのうちの一つは、ある沖縄そば屋だった。
 その店は、マスコミで何度も紹介され、沖縄そばの美味しい店として評判だった。もともとそば好きだったので、何回かこの店を訪れたことがあったが、しばらく足が遠ざかっていて、そのときは半年ぶりくらいだった。
 店はあいかわらず大勢の客でごった返していた。忙しく動いている女の子にソーキそばを注文した。ネギがたっぷりと乗ったそのそばは、いつものように一つの味の崩れも許さない完璧さだった。しかも驚くほど良心的な値段。味的には、特に好みの味というわけではなかったが、店の人の心構えが、しっかり伝わってくるそばだった。
 そのそばを食べながら、不意にかつて自分が作っていた芋そばのことを思い出した。沖縄そばブームで、沖縄そばと書かれたのぼりを立てれば、それで客が集まってくるような時代。しかしどこのそばも同じような味で、ほとんど違いがわからない。そんななかで、あの芋そばは、まぎれもなく唯一のものであり、異彩を放っていた。
 かつて、貧しい沖縄の人々の日常食として食卓にあがっていたという芋そば。人々の飢えを救い、分け合って食べられていたであろう芋そば。それなのに、いまは歴史の闇の中に投げ込まれ、一度よみがえらせた僕からも忘れかけられている…。
 大げさだが、まるで芋そばが遠い昔、どこかの藪のなかに捨てられた哀れな祖母のように思えてくるのだった。そして、突然ある強い衝動が胸のなかにわきおこったのである。
 「芋そばを、復活させよう」


 

◆復活
 もう一つのきっかけは店の事情である。
 ぶくぶく珈琲、古酒カレーと、店の看板ともなるメニューを出してきたものの、もう一つ、沖縄色豊かな商品が欲しかった。もちろん、ただ沖縄らしさがあれば良い、というものではない。夢とロマンにあふれる商品。味的なおいしさはもちろん、歴史的な背景があって、たんに食欲を満たすだけではなく、情感的な部分も満たすことのできる商品がほしかった。
 いろいろアイデアは出されたが、僕は最初から最後まで芋そばに固執した。
 「どうして、そんなに芋そばにこだわるの?」
 呆れたように相方は言った。
 「好きだからさ。それに、芋そばにはロマンかある。沖縄で生まれ、ずっと食べられてきたのに、今は誰からも忘れられてしまっている。あんな素朴で、沖縄らしいそばはないのに。それに、沖縄そばといえば、小麦粉をこねた中華そばのようなものをイメージするけど、こういったお芋のそばも『すば』としてあったことを伝えることにも意義があると思う」
 「そうね…」
 相方はしばらく考えてから言った。
 「私たちがやらなかったら、いつまでも幻だものね…」
 そういうわけで、芋そばが、復活することになった。

 

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