◆発端
 6、7年前の話である。
 首里の当蔵で、お店を出すことになった。
 南方詩人という名称で、沖縄の古代歌謡や、『おもろおさうし』、沖縄の詩人、山之口貘らの詩をテーマに店作りを行なう計画だった。
 しかし、メニューが決まっていなかった。どこかで出しているメニューは一切出さない、という基本方針があったので、なかなか決まらなかった。かといって、系列の他店舗で出している『古酒カレー』とか、『ぶくぶく珈琲』とか出すのは、あまりにも安易すぎる。どうせだすのであれば、もっと沖縄色豊かな、ロマンのあるものを出したかった。

◆幻の沖縄そば
 アイデアを探して、図書館通いが始まった。そして、何回か通ったある日、伝承料理を集めた本の中の一枚の写真が目に入ったのである。それは、『ウムクジそば』という奇妙な名前のそばだった。もともとそばが好きなこともあって、すぐ興味をひかれた。ウムクジ(芋澱粉)で作るそばなんて見たことはもちろん、きいたこともなかったからである。説明を読んでいるうちに、興味は倍増した。いや、実のところ、最初に写真を見たときから、これだ、とひらめくものがあったのだ。
 店を共同経営する相方の意見も聞かず、勝手に決めて、早速、その日のうちに『うむくじそば』の試作品作りが始まった。芋そばという、他に類をみないそばを作ることに、すっかり興奮していた。幻のそばを復活させる、という作業に、ある種のロマンを感じていたかもしれない。
 しかし、芋を麺状にすることは非常に困難で、幾度となく失敗した。途中ですぐ切れるし、太くするとモチっぽくなって、味が下品になる。いろいろ工夫を重ね、ようやく完成したのは、店のオープン前日のことだった。
 『幻の沖縄・昔そば/芋そば』
 そういう名称で、売り出した。

◆幻となった幻のそば
 首里、当蔵の、のんびりした雰囲気の漂う場所ということもあって、お客さんの入りは最初思ったほどでもなかったが、食べたお客さんの反応は上々だった。
 「ほんとに、お芋だけで作ってるの?」
 「ええ」
 「小麦粉とか使っているんじゃないの?」
 「いえいえ、ほんとにお芋だけです」
 「そう。できるんだ、お芋だけで。とにかく、すごいヘルシーでいいね」
 次第に評判を呼んで次第にお客さんの数が増えていった。自分たちの手で作った店の内装、外装も好評で、お客さんの満足度は高い様子だった。
 しかし、半年後、ある事情で、店をしめなければならなくなった。退店するのではなく、臨時休業という形だったが、結局、ずるずると五年もそのまま閉めっぱなしで現在にまで至ってしまっている。そして、幻の沖縄そばは、本当に幻となってしまったのである。

 

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